東京地方裁判所 平成12年(ワ)5204号 判決
原告 朝田幸雄
原告 朝田喜代子
右両名訴訟代理人弁護士 長岡壽一
同 水野賢一
被告 国
右代表者法務大臣 保岡興治
右指定代理人 住川洋英
同 安岡裕明
同 原田定志
同 合川哲男
同 照井透
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告朝田幸雄に対し、金六七〇万七七三三円及びこれに対する平成一〇年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告朝田喜代子に対し、金一一八八万七六〇八円及びこれに対する平成一〇年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、山形税務署長が、株式会社朝田組(以下「朝田組」という。)に対する滞納処分として「株式会社朝田組代理人長岡壽一」名義の預金債権を差し押さえ、租税債権に充当したことにつき、原告らが、右預金債権の一部は原告らに帰属するから、原告ら帰属部分の差押えは違法であると主張して、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償として、被告に対し、原告朝田幸雄(以下「原告幸雄」という。)が六七〇万七七三三円、原告朝田喜代子(以下「原告喜代子」という。)が一一八八万七六〇八円及びこれらに対する差押えの日である平成一〇年一月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 朝田組は、一般住宅建築を中心とする建築業を目的とした株式会社であり、原告幸雄はその代表取締役、原告喜代子は原告幸雄の妻である(甲第八、九号証)。
2 朝田組は、平成九年一二月ころ事実上の倒産状態に陥り、長岡壽一弁護士(以下「長岡弁護士」という。)に対し同社の任意整理を委任した(甲第八、九号証)。
3 長岡弁護士は、平成九年一二月三〇日、株式会社第一勧業銀行山形支店に五〇三四万三一八三円を入金して、「株式会社朝田組代理人長岡壽一」名義の貯蓄預金口座(以下「本件預金」という。)を開設した。
4 朝田組は、平成一〇年一月八日現在で、消費税、地方消費税の本税二〇四三万〇九五四円及び延滞税四〇万四五五四円の合計金二〇八三万五五〇八円(以下「本件租税債権」という。)を滞納していた。
5 平成一〇年一月九日、山形税務署長は、同日における本件預金の残高金三八一五万七四三三円のうち、二〇八三万五四五四円を差し押さえ(以下「本件差押え」という。)、同年二月一二日、右差押えにかかる預金債権を第一勧業銀行から取り立てて本件租税債権に充当した。
二 争点
本件差押えの適否(本件差押えにかかる預金債権の帰属)
三 争点に対する当事者の主張
1 原告らの主張
(一) 預金債権はその出捐者に帰属するものである。
(二) 長岡弁護士は、朝田組の債務整理と同時に、原告ら個人の債務整理と財産処分も依頼されており、右三名の債務整理のための資金を管理する口座として本件預金を開設し、右三名のそれぞれから預かった資金を本件預金に入金した。このため、本件預金は右三名に出捐の額に応じて帰属するものである。
(三) そして、本件預金の平成一〇年一月九日における残高三八一五万七四三三円のうち、二二四万〇一一三円については朝田組が、一二九五万六一三八円については原告幸雄が、二二九六万一一八二円については原告喜代子がそれぞれ出捐したものであった。
(四) したがって、本件差押えにかかる預金債権のうち、朝田組に帰属する二二四万〇一一三円を除いた一八五九万五三四一円については、前記出捐額の割合に従い、六七〇万七七三三円が原告幸雄に、一一八八万七六〇八円が原告喜代子に帰属するものである。
(五) しかるに、被告は、右全額が朝田組に帰属するものとして、朝田組に対する滞納処分として差押えをし、配当を実施して国税に充当してしまった。
本件預金は、名義や資金の流れ等から、朝田組のみに帰属するものではないことが明らかであったのに、被告は、これを全て朝田組に帰属するものとして差押えをしたのであるから、少なくとも過失がある。
よって、被告は、国家賠償法一条一項に基づき、損害賠償として、原告幸雄に対し六七〇万七七三三円、原告喜代子に対し一一八八万七六〇八円を支払う義務がある。
2 被告の主張
(一) 本件預金は、朝田組から会社の任意整理を委任された長岡弁護士が、任意整理業務遂行のための資金を管理するために、朝田組の代理人名義で開設したものであり、本件預金の開設原資は、朝田組の出捐によるものであるから、本件預金の預金者は、朝田組である。
仮に、本件預金の原資の一部が原告らの出捐によるとしても、それは朝田組の任意整理のため、朝田組に提供されたものである。また、預金債権は包括的に一個の債権であって、原告らの出捐に係る預入金について各別の預金債権が成立するということもできないから、たとえ原告らの出捐にかかる金員の入金があったとしても、右は預金債権の帰属の問題ではなく朝田組と原告らとの間の問題にすぎず、この点においても原告らの主張は失当である。
(二) したがって、本件預金の預金者は朝田組であり、本件差押えにかかる預金債権は朝田組に帰属するものであるから、本件差押えは適法であり、被告に損害賠償義務はない。
第三争点に対する判断
一 前記争いのない事実、証拠(甲第一号証の一、二、第二号証の一ないし三、第三ないし第六、第七号証の一、二、第八、九号証、乙第一ないし第七号証、第九ないし第一五号証)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
1 朝田組及び原告らは、平成九年一二月、長岡弁護士に朝田組の任意整理を委任する際、原告ら共有の不動産を売却して、その売却代金から原告らの固有の債務及び原告らが個人保証した朝田組の債務を返済した残余を朝田組の任意整理の弁済資金として提供することを約し、その売却、返済等の手続を長岡弁護士に委任した。
2 長岡弁護士は、同月二二日、朝田組所有の不動産を代金一億一四〇〇万円で、また、同日、原告ら共有(持分二分の一ずつ)の不動産を代金一億三五〇〇万円でそれぞれ売却した。
3 長岡弁護士は、右同日、右2の朝田組不動産の売却代金の全額と原告ら不動産の売却代金のうち九二九〇万五四九二円を朝田組の山形銀行に対する債務の弁済に充てた。そして、原告らは、右売却代金の残金四二〇九万四五〇八円の管理処分を長岡弁護士に任せ、長岡弁護士は右金員を第一勧業銀行の山形支店の「長岡壽一」名義の普通預金口座(以下「第一預金」という。)に振り込んだ。
4 長岡弁護士は、同月二四日、第一勧業銀行山形支店に朝田組からの預り金七三七万六三七七円を入金し、「株式会社朝田組代理人長岡壽一」名義の普通預金口座(以下「第二預金」という。)を開設した。そして、右同日、長岡弁護士は、第一預金から第二預金に四二〇九万四五〇八円を振替入金した。
その後、長岡弁護士は、第二預金から朝田組の任意整理のための弁護士報酬、同社の従業員の給与資金等を払い戻し、朝田組の手持資金を入金するなどした。
5 長岡弁護士は、銀行の担当者から、第二預金を利息の点で預金者に有利な貯蓄預金に切り替えることを勧められ、同月三〇日、第二預金の残高全額五〇三四万三一八三円を振替の方法で払出し、右同額を入金して本件預金を開設した。その後、長岡弁護士は、本件差押えを受けるまでの間、本件預金から、朝田組の従業員の給与資金、産業廃棄物処理費等及び原告幸雄の保証債務等の払出手続を行った。
二 争点について
原告らは、本件差押えにかかる預金債権のうち、原告らの出捐による部分は原告らに帰属する旨主張する。
しかしながら、預金債権は、預金口座を開設する際に、預金者と銀行との間で締結された預金契約に基づき、一個の包括的な債権として成立するものであり、個々の預入金ないし出捐者ごとに各別の預金債権が成立するものではない。
そして、預金債権の帰属については、自らの出捐により、自らの預金とする意思で、銀行に対して自らもしくは使者又は代理人を通じて預金契約をした者を預金者と解すべきである。
これを本件についてみると、まず、第二預金については、朝田組の任意整理を委任された長岡弁護士が、朝田組代理人の名義で、朝田組の資金を原資として口座を開設したものであるから、預金者は朝田組であり、朝田組に帰属するものというべきである。たしかに、第二預金の開設日に入金された四二〇九万四五〇八円は、原告らの不動産の売却代金であり、原告らにおいて、原告らの個人債務、原告らが個人保証した朝田組の債務を返済しその残余を朝田組の債務の弁済資金として提供するとの合意の下に長岡弁護士にその管理処分を任せたものであるが、このような性質を有する資金を長岡弁護士において第二預金に入金することは、朝田組の預金として一元管理する趣旨にほかならないというべきであり、右金員の入金は、第二預金の預金者が朝田組であるとの前記認定を覆すものではない。
そして、本件預金は、右第二預金を貯蓄預金に改めたものにすぎず、預金者名も同一であるから、これも朝田組に帰属するものというべきである。
以上によれば、本件預金の預金者は朝田組であり、本件差押えにかかる預金債権は全て朝田組に帰属するものであって、本件差押えには何ら違法な点はない。
第四結論
よって、本訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 瀧澤泉 裁判官 澤田正彦 裁判官 加本牧子)